体育館なんて洒落た呼び方ではなく「講堂」だった。当時、多動で落ち着きがなく所謂「発達障害児」であった自分は担任の中年女性教師から当然の如く嫌われ、田舎特有のキツいいじめの渦中にあっても完全にスルーされていた。そんな中、初めての「学芸会」。クラスの出し物は「花さかじじい」のお芝居だったが、私は裏方すらやらせてもらえず、練習時も校庭に追い出されていた。発表当日、おそらく保護者なども観に来て賑やかな声を聴きつつ、講堂の裏手の百日紅の木にもたれてひたすら時間を潰した。母には学芸会の話はしなかったので、来る事は無かった。こっそりくすねた小道具の、金の折り紙の貼られた紙の小判をためすすがめつ眺めたりして、ただひたすら長い長い暇を潰した。もたれた埃っぽい壁の背中越しに、大勢の拍手と笑い声が響いていた。風が吹くと頭上からひらひらといくらでも舞い散ちて来る細かなフリルの小さな小さな桃色の花弁を、今も鮮明に覚えている。穏やかな日差しの、良く晴れた日だった。
(2021/06/09 20:46:24:名無し)